歯科医院の節税対策8選|個人開業医・医療法人で使える方法を解説
歯科医院の利益が増えてくると、「税金を少しでも抑えたい」と考える院長先生は少なくありません。
歯科医院で代表的な節税・資金対策には、医療法人化、役員報酬の設計、役員退職金、小規模企業共済、生命保険、MS法人、設備投資などがあります。
ただし、節税は「税金が減れば成功」というものではありません。
例えば、300万円を使ったことで税金が100万円減ったとしても、200万円得をしたわけではありません。医院から300万円の現金が出ていき、その結果として税負担が100万円減ったということです。
もちろん、その300万円が将来必要になる設備への投資やスタッフへの還元、理事長の退職金原資などに変わるのであれば、意味のある支出になる場合があります。
歯科医院の節税で本当に見るべきなのは、
「税金をいくら減らせるか」ではなく、「最終的に医院と院長にいくら残せるか」
です。
この記事では、歯科医院で利用されている代表的な節税対策を取り上げながら、個人医院と医療法人で考え方がどう違うのか、MS法人や生命保険がどのように使われてきたのか、さらに個人開業医が確認しておきたい「措置法26条」や、「医療法人は黒字を出さない方がいい」と言われる理由まで解説します。
歯科医院の代表的な節税対策一覧
歯科医院で検討される代表的な節税・資金対策を整理すると、次のようになります。
節税・資金対策 | 個人医院 | 医療法人 | 主な目的 |
医療法人化 | ○ | ― | 所得・経営形態の最適化 |
役員報酬の設計 | ― | ○ | 法人と個人の税負担調整 |
役員退職金 | ― | ○ | 将来の退職資金設計 |
法人契約の生命保険 | ― | ○ | 退職金原資などの準備 |
小規模企業共済 | ○ | 原則× | 院長自身の退職資金準備 |
MS法人 | △ | ○ | 周辺事業の分離・所得分散 |
設備投資 | ○ | ○ | 必要投資と利益圧縮 |
賞与・教育・採用への投資 | ○ | ○ | 人材への還元・経営強化 |
また、個人で歯科医院を経営している院長先生の場合は、一定の要件を満たすと「社会保険診療報酬の所得計算の特例(措置法26条)」を利用できる可能性があります。
どの方法が適しているかは、医院の利益、法人形態、院長個人の所得、保険診療と自由診療の割合、今後の設備投資、分院展開、事業承継などによって変わります。
「節税額が大きい方法」を選ぶのではなく、医院の経営計画に合っているかという視点が重要です。
歯科医院の節税で重要なのは「税額」ではなく「手残り」
節税を考えるときに、最初に確認したいことがあります。
その節税によって、本当に医院のお金は増えているでしょうか。
例えば300万円を支出して税金が100万円減ったとしても、医院の現金は300万円減っています。
その支出が必要な設備や採用、人材育成などにつながり、将来の利益を生み出すのであれば意味があります。
一方で、
「税金を払いたくないから、とにかく経費を使う」
こと自体が目的になると、医院のキャッシュを減らすだけになりかねません。
そのため、節税を検討するときには、
- いくら現金が出ていくのか
- 税金はいくら減るのか
- 将来、その支出が何に変わるのか
- 最終的に医院と院長へいくら残るのか
まで確認することが重要です。
個人医院・医療法人で使われる8つの節税対策
1.個人医院から医療法人へ移行する
歯科医院の売上や利益が大きくなってくると、医療法人化を検討する院長先生も増えてきます。
医療法人化によって節税につながるケースはありますが、
「利益が増えたら医療法人にすれば必ず得」
というほど単純ではありません。
個人医院の場合、医院で生じた事業所得は基本的に院長個人の所得になります。
そのため、利益が大きくなるほど院長個人に所得が集中し、所得税・住民税の負担も大きくなっていきます。
一方、医療法人になると、医院で生じた利益のすべてがそのまま理事長個人の所得になるわけではありません。
医療法人から理事長へ役員報酬を支払い、残った利益は法人に残すことができます。
つまり、
- 理事長が役員報酬としていくら受け取るのか
- 医療法人にいくら利益を残すのか
を分けて考えられるようになります。
さらに長期的には、理事長の役員退職金を設計することもできます。
こうした仕組みを利用し、法人と個人への所得の持たせ方を設計できることは、医療法人化のメリットの一つです。
医療法人化は社会保険料まで含めて考える
ただし、税金だけを見て医療法人化を判断するべきではありません。
医療法人では社会保険への加入や法人運営に伴うコストなども考慮する必要があります。
また、個人経営の歯科医院でも、従業員数など一定の条件によって社会保険の適用対象となる場合があります。
そのため、
「医療法人化すると初めて社会保険料が発生する」
とは限りません。
法人化前後で、税金だけではなく社会保険料や法人維持コストまで含めて比較する必要があります。
持分なし医療法人では法人の財産を自由に取り戻せない
現在、新たに設立する医療法人は原則として持分なし医療法人です。
ここは一般的な株式会社への法人成りとの大きな違いです。
株式会社であれば、株式には財産的な価値があります。
一方、持分なし医療法人では、法人内部に蓄積された財産を、理事長が出資持分として自由に取り戻せる仕組みではありません。
また、医療法第54条では、医療法人による剰余金の配当が禁止されています。※出典1
そのため、
「税金を抑えるために法人へ利益を残しておけば、いつか全部自分のお金として受け取れる」
という考え方はできません。
医療法人化を検討するときには、
- 個人医院のまま経営した場合、院長個人へいくら残るのか
- 医療法人化した場合、法人と理事長個人へそれぞれいくら残るのか
を比較する必要があります。
所得税・住民税・法人税だけではなく、社会保険料、役員報酬、将来の役員退職金、法人に残す現預金、分院展開や事業承継まで含めて考えることが重要です。
医療法人化は、単なる「節税のための制度」ではありません。
医院の規模が大きくなった際に、経営・組織・税務・分院展開・承継まで含めて、経営形態そのものを変える選択肢です。
そのため、
「年商○○万円を超えたら法人化」
「利益○○万円を超えたら医療法人の方が得」
といった基準だけで判断するのではなく、法人化前後のキャッシュを具体的にシミュレーションすることが大切です。
2.理事長の役員報酬を適正に設定する
医療法人化した後、節税を考えるうえで重要になるのが、理事長の役員報酬をいくらに設定するかです。
役員報酬は、
「多く取れば取るほど得」でも、「法人に残せば残すほど得」でもありません。
判断するときは、役員報酬を増やした場合の個人側の税・社会保険負担と、法人に利益を残した場合の法人側の税負担などを比較する必要があります。
個人の所得税は所得が増えるほど税率が上がる
所得税は累進課税です。
国税庁では、所得税率を課税所得に応じて5%から45%までの7段階としています。※出典2
課税される所得金額 | 所得税率 |
195万円以下 | 5% |
195万円超~330万円以下 | 10% |
330万円超~695万円以下 | 20% |
695万円超~900万円以下 | 23% |
900万円超~1,800万円以下 | 33% |
1,800万円超~4,000万円以下 | 40% |
4,000万円超 | 45% |
※このほか復興特別所得税があり、住民税等も考慮する必要があります。
例えば、課税所得が900万円を超えた瞬間に所得全体へ33%の税率がかかるわけではありません。
900万円を超えた部分に33%の税率が適用されます。
そのため、役員報酬を考える際には、単純な年収だけではなく、課税所得がどの税率帯に入っているかを見ることが重要です。
法人に残した利益にも税金はかかる
役員報酬を抑えて法人に利益を残したからといって、その利益が無税になるわけではありません。
医療法人側では法人税、法人住民税、事業税などを負担します。
そのため比較するべきなのは、
- 役員報酬を増やした場合に個人側で増える税・社会保険負担
- 法人に利益を残した場合に法人側で増える税負担
- 法人に残した資金を将来何に使うのか
です。
理事長個人の所得がすでに高い場合、
「本当に今、追加で個人へ移す必要があるのか」
を検討する余地があります。
必要以上に役員報酬を増やさず、一部を法人に残し、将来の設備投資、分院展開、役員退職金などに使うという選択肢もあります。
役員報酬はいくらが得かは年収だけでは決められない
「では、役員報酬はいくらにすれば一番節税になるのか」
と考える院長先生もいるでしょう。
しかし、一律に「年収○○万円」と決めることはできません。
所得税率を決める課税所得は、給与所得控除や各種所得控除、その他の所得などによっても変わるからです。
したがって、
「年収はいくらか」だけではなく、「課税所得がどの税率帯に入るのか」
を見る必要があります。
役員報酬は決算直前に自由に調整できない
もう一つ重要なのが、役員報酬を変更できる時期です。
法人税法上、役員給与を損金算入するには「定期同額給与」など一定の要件があります。
国税庁も、通常の改定について事業年度開始から3か月以内など、一定の要件を定めています。※出典3
そのため、
「今年は予想以上に利益が出たので、決算直前に理事長報酬を増やそう」
という調整が自由にできるわけではありません。
年度の早い段階から、
- 医療法人の利益はいくらになりそうか
- 理事長の課税所得はいくらになるか
- 法人へいくら利益を残すのか
- 将来、その資金を何に使うのか
までシミュレーションしておくことが重要です。
3.理事長の役員退職金を設計する
利益が安定して出るようになった医療法人で、早い段階から考えておきたいのが理事長の役員退職金です。
医療法人では、理事長が法人からお金を受け取る方法は毎月の役員報酬だけではありません。
退任時に役員退職金として受け取る方法があります。
そのため、
- 現役時代に役員報酬としていくら受け取るのか
- 医療法人にいくら資金を残しておくのか
- 退任時に役員退職金としていくら受け取るのか
を長期的に考えることが重要です。
役員退職金はなぜ税務上有利と言われるのか
役員退職金には、医療法人側と理事長個人側の両方に税務上の特徴があります。
医療法人側では、適正な役員退職金であれば、一定の要件のもと損金算入が可能です。
一方、受け取る理事長側では、通常の役員報酬とは異なり、退職所得として扱われます。
退職金には退職所得控除がある
退職所得には、勤続年数に応じた退職所得控除があります。※出典4
原則的な計算方法は次のとおりです。
勤続年数 | 退職所得控除 |
20年以下 | 40万円×勤続年数 ※最低80万円 |
20年超 | 800万円+70万円×(勤続年数-20年) |
また、一般的な退職所得では、退職所得控除を差し引いた残額の2分の1をもとに退職所得を計算します。
例えば、勤続年数が30年で3,000万円の退職金を受け取った場合、
退職所得控除は、
800万円+70万円×10年=1,500万円
です。
一般的な退職所得の計算であれば、
(3,000万円-1,500万円)×1/2=750万円
となります。
3,000万円を受け取ったからといって、3,000万円すべてがそのまま退職所得になるわけではありません。
役員としての勤続年数が5年以下の場合は注意する
役員退職金なら必ず2分の1計算が使えるわけではありません。
役員等としての勤続年数が5年以下で、その期間に対応する退職金が特定役員退職手当等に該当する場合には、原則的な2分の1計算が適用されません。※出典4
そのため、
「医療法人を作って数年後に退職金を出せば簡単に節税できる」
という制度ではありません。
役員退職金は短期的な節税対策ではなく、長期間にわたる医療法人経営の出口まで含めて設計するものです。
役員退職金に一律の上限があるわけではない
「理事長の退職金はいくらまで認められるのか」
という疑問もよくあります。
税法上、
「理事長なら5,000万円まで」
「理事長なら1億円まで」
といった一律の上限が定められているわけではありません。
実務上は、
最終役員報酬月額×役員在任年数×功績倍率
という、いわゆる功績倍率法が参考にされることがあります。
ただし、
「理事長なら功績倍率3倍まで必ず認められる」
と法律で決められているわけではありません。
在任期間、退職の事情、職務内容、法人規模、同業・同規模法人の支給状況などを踏まえて判断する必要があります。
「退職した実態」があることも重要
役員退職金を支給する場合には、本当に退職したといえる実態も重要です。
書類上だけ理事長を退任し、その後もほぼ同じ権限、仕事内容、報酬で経営を続けている場合には、本当に退職したのかが問題になる可能性があります。
そのため役員退職金は金額だけではなく、
「理事長として実質的に退任したと説明できる状態か」
まで考える必要があります。
「退職金を出せる」と「退職金を払える」は違う
もう一つ忘れてはいけないのが、退職金の原資です。
税務上、一定額の役員退職金を支給できるとしても、理事長が退任するときに医療法人へ十分な現金がなければ支払うことはできません。
そのため、
「いくらまで退職金として認められるか」
だけではなく、
「その退職金をどう準備するのか」
まで計画しておくことが重要です。
その資金準備の方法として以前から使われてきたものの一つが、法人契約の生命保険です。
4.法人契約の生命保険を活用する
歯科医院の節税を長く見てきた院長先生であれば、法人契約の生命保険を勧められた経験があるかもしれません。
以前、医療法人の節税でよく利用されていたのが、逓増定期保険などの法人向け生命保険です。
考え方としては、
法人が保険料を支払う
↓
一定の税務処理を行いながら解約返戻金を積み上げる
↓
理事長の退任時などに解約する
↓
解約返戻金を役員退職金の原資などに使う
というものです。
生命保険は以前ほど単純な節税商品ではない
法人向け定期保険等については、税務上の取扱いが見直されています。
現在は、最高解約返戻率が高い一定の保険について、支払保険料の一部を資産計上する取扱いがあります。※出典5
つまり、
「年間500万円の保険料を払えば、そのまま500万円利益を減らせる」
という単純なものではありません。
そのため現在は、生命保険を、
「毎年の法人税を減らす商品」
としてだけ考えるより、
「将来の退職金などに備える資金準備の手段」
として検討する視点が重要です。
確認するべきなのは、
- 解約時にいくら戻るのか
- 解約時にどのような課税関係になるのか
- その資金を何に使うのか
という出口まで含めた設計です。
5.個人医院なら小規模企業共済を検討する
個人医院の院長であれば、小規模企業共済も代表的な選択肢です。
小規模企業共済は、個人事業主などが廃業・退職時などに備えて資金を積み立てる制度です。
加入要件を満たす個人開業医にとっては、
現在の所得税等の負担を抑えながら、自分自身の将来資金を準備する
という使い方ができます。
一方、中小企業基盤整備機構では、医療法人の役員について、直接営利を目的としない法人の役員に該当するため、小規模企業共済の加入資格を認めていません。※出典6
そのため、
個人医院時代に使える制度と、医療法人化後の役員退職金などの制度は分けて考える
必要があります。
個人開業医は「措置法26条」も確認する個人で歯科医院を経営している院長先生の場合は、「社会保険診療報酬の所得計算の特例(措置法26条)」も確認しておきたい制度です。
措置法26条は、一定の要件を満たす個人の医師・歯科医師について、社会保険診療報酬に対応する必要経費を、実際にかかった経費ではなく、社会保険診療報酬の金額に応じた概算経費によって計算することを選択できる制度です。※出典7
国税庁の申告書付表では、
- 社会保険診療報酬が5,000万円を超える場合
- 医業・歯科医業から生じる収入金額が7,000万円を超える場合
には、措置法26条を適用できないとされています。※出典7
実際にかかった経費よりも措置法26条による概算経費の方が大きくなる場合には、結果として課税所得を抑えられる可能性があります。
一方で、すべての個人開業医に有利になる制度ではありません。
保険診療と自由診療の割合や実際の経費額などによって結果は変わるため、
「実額経費で計算した場合」と「措置法26条を適用した場合」のどちらが有利か
を比較して判断することが重要です。
なお、ここで説明している措置法26条は、個人で医業・歯科医業を営む場合の所得計算に関する特例です。
医療法人には社会保険診療報酬に関する別の税務上の規定があるため、法人化後も同じ制度がそのまま適用されるという意味ではありません。
6.MS法人を活用する
歯科医院の節税を調べていると、
MS法人(メディカル・サービス法人)
という言葉を目にすることがあります。
MS法人という特別な法人制度が存在するわけではありません。
医療機関の周辺業務を行う株式会社や合同会社などを、一般的にMS法人と呼んでいます。
例えば、
- 経理や事務
- 不動産賃貸
- 医療機器等のリース
- 物品販売
- 清掃・管理
などです。
医療法人は行える業務に一定の制限があります。
そのため、診療と周辺事業を分ける目的でMS法人を設立することには合理性があります。
一方で、MS法人は節税や所得分散の観点から利用されてきた側面もあります。
MS法人が節税になると言われる理由
例えば医療法人からMS法人へ、
- 経理・事務の業務委託料
- 建物の賃料
- 機器のリース料
- 物品購入代金
などを支払います。
取引に実態があり、対価も適正であれば、医療法人側では費用となり、MS法人側では売上になります。
また、MS法人で院長の家族などが実際に働いているのであれば、職務内容に応じて給与を支払うことも考えられます。
MS法人は「利益を逃がす箱」ではない
ただし、
「医療法人に利益を残したくないからMS法人へ移す」
という考え方はできません。
重要なのは、
- 実際に業務を行っているか
- 契約書があるか
- 業務内容を説明できるか
- 支払う金額は適正か
- 第三者との取引でも妥当と説明できるか
という点です。
MS法人は利益を逃がすための箱ではありません。
医療法人との取引には、実態と合理性が求められます。
7.必要な設備投資の時期を調整する
歯科医院では、設備投資も節税対策の一つとしてよく挙げられます。
例えば、
- ユニット
- CT
- マイクロスコープ
- 口腔内スキャナー
- CAD/CAM関連設備
- 滅菌設備
- レセコン
- 予約管理システム
- 内装設備
などです。
歯科医院は設備投資額が大きいため、決算前になると、
「今年は利益が出ているので、来年予定していた設備投資を前倒ししませんか」
という話が出ることがあります。
来年確実に必要になる設備を前倒しで導入するのであれば、合理的な判断になる場合があります。
ただし、
「税金が減るから設備を買う」
という考え方には注意が必要です。
500万円の設備を買っても500万円すべてが経費になるとは限らない
設備投資でまず理解しておきたいのが、
支払った金額と、その年の経費になる金額は同じではない
ということです。
例えば500万円のCTを購入すれば、医院から500万円の現金が出ていきます。
しかし、CTやユニットなど長期間使用する設備は、一般的に固定資産として計上し、耐用年数に応じて減価償却していきます。
つまり、500万円支払ったからといって、その年の利益が500万円減るとは限りません。
決算前に設備投資をする場合は、
「いくら払うか」
ではなく、
「今年いくら経費として計上できるのか」
を確認する必要があります。
少額の設備は一括で経費にできる場合もある
比較的少額の設備や備品については、一定の要件を満たすことで、その年度に全額を経費として処理できる場合があります。
ただし、対象者や取得価額、年間の上限など条件があります。
「一定金額未満なら何でも全額経費になる」
という意味ではありません。
中古設備では償却期間が短くなる場合もある
中古のユニットや医療機器を購入した場合には、中古資産として耐用年数を計算できる場合があります。
その結果、新品より短期間で減価償却できるケースもあります。
ただし、
「節税できるから中古を買う」
のではなく、設備の性能、故障リスク、保守費用、使用予定期間まで考えて購入することが重要です。
設備投資で見るべきなのは「何年で回収できるか」
歯科医院の設備投資で本当に重要なのは、節税額ではありません。
その設備がどれだけ利益を生み出すのか
です。
例えば500万円の口腔内スキャナーを導入するとします。
確認するべきなのは、
- 診療時間を短縮できるのか
- 材料費や技工コストを削減できるのか
- 自費診療の提案力が上がるのか
- 患者数や患者単価へ影響するのか
- 年間でどれだけ利益を増やせるのか
- 何年で投資額を回収できるのか
です。
例えば500万円の設備によって年間200万円の利益増加が見込めるのであれば、単純計算では約2年半で投資額を回収できます。
一方、節税になるという理由だけで500万円を使い、売上や生産性にほとんど影響しないのであれば、経営上よい投資とは言えません。
設備投資は、
利益が出た
↓
税金を減らしたい
↓
何か買う
ではなく、
必要な設備がある
↓
投資効果を確認する
↓
導入時期を検討する
↓
利益が大きく出る年度なら前倒しも検討する
という順番で考えることが重要です。
8.スタッフへの賞与・教育・採用へ投資する
節税を考えるとき、スタッフへの還元も検討したい選択肢です。
例えば、
- 賞与
- 昇給
- 研修・教育
- 福利厚生
- 採用
- 職場環境の改善
などです。
もちろん、税金を減らすことだけを目的に固定給を上げるのはおすすめできません。
固定給は翌年度以降も継続的に発生するからです。
一方、利益が出ている医院がスタッフへ還元し、その結果として定着率、採用力、生産性などが向上するのであれば、それは単なる経費ではありません。
翌年以降の利益を生み出すための投資になります。
例えば500万円の利益を減らしたいからといって、500万円すべてを節税目的の商品に使う必要はありません。
- スタッフへ200万円還元する
- 採用へ100万円使う
- 教育へ100万円使う
- 残った利益については税金を支払い、法人に現金を残す
という選択肢もあります。
歯科医院で経費にできる主な支出
歯科医院では、診療や医院経営に必要な支出について、一定の要件のもと経費として処理できるものがあります。
代表的なものとしては、
- 医療機器・診療設備
- パソコン・タブレット・院内システム
- セミナー・研修費
- 学会費
- 業務上必要な書籍・資料
- 広告宣伝費
- 採用費
- スタッフ教育費
- 業務上必要な旅費交通費
- 消耗品費
- 外注費
- 家賃・水道光熱費
などが挙げられます。
ただし、
「歯科医師が支払ったものなら何でも経費にできる」わけではありません。
医院の事業に必要な支出であることを説明できるかが重要です。
また、金額や内容によっては一括で経費にならず、固定資産として減価償却が必要になるものもあります。
具体的な処理については税理士へ確認してください。
なぜ「医療法人は黒字を出さない」と言われるのか
医療法人を経営していると、
「医療法人はあまり利益を残さない方がいい」
という話を聞くことがあります。
大きな理由の一つが、医療法人には株式会社のような利益配当が認められていないことです。
医療法第54条では、
「医療法人は、剰余金の配当をしてはならない」
と定められています。※出典1
株式会社であれば、会社に利益が出た後、株主へ配当するという選択肢があります。
しかし医療法人では、それができません。
そのため、
「法人に大きな利益を残して税金を払うくらいなら、設備、人材、退職金準備などへ使おう」
という考え方が生まれます。
こうした背景から、
「医療法人は黒字を出さない」
と言われることがあります。
「医療法人は黒字にしてはいけない」は間違い
ただし、医療法人は利益を出してはいけない法人ではありません。
「非営利」という言葉から誤解されやすいのですが、非営利とは、
利益を出してはいけないという意味ではなく、利益を構成員へ配当しないという意味
です。
中小企業基盤整備機構も、医療法人の「非営利」について、収益を上げることを制限するものではないと説明しています。※出典6
むしろ毎年、
「税金を払いたくないから利益をゼロにする」
という経営には注意が必要です。
歯科医院では突然、大きな資金が必要になることがあります。
例えば、
- ユニットの更新
- CTの買い替え
- 内装改修
- 移転
- 分院開設
- 採用
- スタッフ増員
などです。
こうした投資を行うためには、法人に一定の現預金を持っておく必要があります。
さらに金融機関から融資を受ける際にも、継続的に利益を出せる医院かどうかは重要な判断材料の一つになります。
そのため、
「いかに利益を出さないか」ではなく、「いくら利益を残す必要があるか」
から考えることが重要です。
歯科医院の節税は3種類に分けて考える
ここまで紹介した方法を整理すると、「節税」と呼ばれているものは大きく3種類に分けて考えられます。
1.法人と個人の所得・負担を適正化するもの
医療法人化や役員報酬の設計などです。
法人だけを見るのではなく、理事長個人まで含めて、税金・社会保険料・最終的な手残りを考えます。
2.課税される時期を調整するもの
生命保険などが代表例です。
現在の税負担が軽くなったとしても、その後の解約などによって課税関係が生じる可能性があります。
そのため、入口だけではなく出口まで見る必要があります。
3.お金を使って利益を減らすもの
設備投資、広告、採用、教育、スタッフへの賞与などです。
これらを行うこと自体が悪いわけではありません。
重要なのは、
「使ったお金が翌年以降、何を生み出すのか」
です。
なお、措置法26条はこれらの節税策とは少し性質が異なり、一定の個人開業医が利用できる所得計算上の特例です。
「何かにお金を使って税金を減らす」というものではなく、自院が適用要件を満たしているか、実額経費との比較で有利になるかを確認する制度として考えるとよいでしょう。
「節税になります」と言われたら確認したい5つのこと
税理士や保険会社などから、
「先生、これをやれば節税できます」
と言われたときには、節税額だけを見るのではなく、次の5つを確認してみてください。
- いくら現金が出ていくのか
- 実際に今年の税金はいくら減るのか
- 将来、そのお金を受け取るときにどのような課税が生じるのか
- 支出したお金は最終的に何に変わるのか
- 何もしなかった場合と比べて最終的な手残りはいくら違うのか
ここまで数字で確認すれば、その節税が本当に医院にとって意味のあるものなのかが見えやすくなります。
歯科医院の節税は決算直前ではなく年間で考える
歯科医院でよくあるのが、決算が近づいてから税理士に、
「先生、このままだとかなり利益が出ます」
と言われるケースです。
そこから慌てて、
- 設備を買う
- 保険を検討する
- 広告費を使う
という話になることがあります。
しかし、本来の節税は決算直前だけで考えるものではありません。
役員報酬は年度途中に自由に変更できるものではありません。
役員退職金は何年、何十年という単位で考えるものです。
設備投資も医院の中長期計画と連動させるべきです。
そのため、年間を通じて、
売上
↓
人件費
↓
その他経費
↓
利益
↓
税金
↓
キャッシュ
まで予測します。
そのうえで、
- 設備へ投資するのか
- 人材へ投資するのか
- 退職金原資を準備するのか
- 法人に現金を残すのか
を判断します。
節税は決算対策ではなく、経営計画の一部です。
まとめ|歯科医院の節税は「税金」ではなく「手残り」で考える
歯科医院では、医療法人化、役員報酬、役員退職金、生命保険、小規模企業共済、MS法人、設備投資、スタッフへの還元など、さまざまな方法が節税策として使われています。
また、個人開業医の場合には、一定の要件を満たすことで措置法26条による社会保険診療報酬の所得計算の特例を利用できる可能性もあります。
しかし、税制や制度は変わっています。
以前は節税商品として広く利用されていた法人向け生命保険も、現在は昔と同じ考え方で使えるとは限りません。
MS法人についても、
「医療法人の利益をMS法人へ移せばいい」
という単純なものではありません。
そして、医療法人だからといって利益をゼロにする必要もありません。
大切なのは、
「税金をいくら減らせたか」ではなく、「最終的に医院と院長にいくら残ったか」
です。
税金を100万円減らすために300万円使うのであれば、本当にその300万円を使う必要があるのかを考える。
必要な設備なら投資する。
スタッフの成長や定着につながるなら還元する。
将来の退職金が必要なら計画的に準備する。
分院展開や設備更新に必要なら、法人に現金を残す。
そして、それでも利益が残るのであれば、適正な税金を支払う。
節税とは、税金をできるだけ払わないことではありません。
医院と院長の将来に、できるだけ多くの資産を残すこと。
歯科医院の節税は、この視点から考えることが大切です。
参考資料・出典
※出典1:厚生労働省「医療法」第54条
※出典2:国税庁「No.2260 所得税の税率」
※出典3:国税庁「No.5211 役員に対する給与」
※出典4:国税庁「No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)」
※出典5:国税庁「法人向け定期保険等の保険料の税務上の取扱い」
※出典6:独立行政法人中小企業基盤整備機構「小規模企業共済 加入資格・よくあるご質問」
※出典7:国税庁「所得税青色申告決算書(一般用)付表《医師及び歯科医師用》記載要領」
※本記事は、歯科医院経営に関する一般的な税務・経営上の考え方を解説したものであり、特定の税務処理や節税方法を推奨するものではありません。税制・制度は改正される場合があり、適用可否や税務上の取扱いは医院ごとの状況によって異なります。具体的な税務判断については、税理士等の専門家へご確認ください。
執筆者
道下 雅和
FELICIA Works株式会社 代表取締役
営業18年、マーケティング15年、経営戦略10年。 営業職としてトップセールスの実績を積んだ後、複数社で営業統括、マーケティング統括、執行役員、取締役を歴任。 これまでに、累計500院以上のクリニックを含む1,000社以上の企業支援に携わる。 経営戦略、マーケティング、営業、組織づくりまで幅広い領域を支援し、表面的な施策ではなく、経営課題を本質から捉えた戦略設計を強みとする。 短期的な成果の創出だけでなく、持続的に利益を生み出す仕組みづくりを得意としている。