歯科医院の開業融資はいくら借りられる?自己資金・審査・融資先を解説
歯科医院の開業を考え始めた勤務医の先生にとって、大きな不安の一つが「資金」ではないでしょうか。
「開業には結局いくら必要なのか」
「自己資金はいくら用意しておけばよいのか」
「5,000万円、7,000万円といった金額を本当に借りられるのか」
「住宅ローンが残っていても融資を受けられるのか」
「物件を契約するのと、金融機関に相談するのはどちらが先なのか」
歯科医院は、内装工事、ユニット、CT、滅菌設備などにまとまった資金が必要です。
さらに、採用費や広告費、開業後の運転資金も用意しておかなければなりません。
だからこそ、開業融資では「どこから一番安く借りるか」より先に、
どんな医院をつくるのか
↓
総額でいくら必要なのか
↓
開業後にいくら現金を残すのか
↓
自己資金はいくら使うのか
↓
その結果、いくら借りる必要があるのか
という順番で考えることが重要です。
この記事では、歯科医院の開業資金の目安から、必要な借入額の考え方、自己資金、日本政策金融公庫や銀行などの融資先、審査で見られるポイント、融資を受けるまでの流れまで順番に解説します。
歯科医院の開業融資はいくら借りるべき?
最初に結論からお伝えすると、歯科医院の開業融資は「借りられる上限額」から決めるものではありません。
総事業費から自己資金を差し引き、さらに開業後に必要な運転資金を確保したうえで、必要な借入額を決めます。
例えば、次のような開業計画を考えてみます。
資金用途 | 金額例 |
|---|---|
物件取得・保証金 | 500万円 |
内装・設計 | 2,000万円 |
医療機器 | 3,000万円 |
開業準備費 | 500万円 |
運転資金 | 1,500万円 |
総事業費 | 7,500万円 |
自己資金 | ▲1,000万円 |
必要融資額 | 6,500万円 |
※金額は資金計画を考えるための一例であり、平均額や推奨額ではありません。
この場合に考えるべきなのは、
「日本政策金融公庫から6,500万円借りられるか」
ではありません。
日本政策金融公庫、銀行・信用金庫などを含め、必要な6,500万円をどのような条件で調達するかを考えます。
例えば、
自己資金1,000万円
+日本政策金融公庫2,500万円
+銀行・信用金庫4,000万円
といった組み方も一つの考え方です。
もちろん、実際にいくら融資を受けられるかは、自己資金、勤務医としての経験、既存借入、物件、総事業費、事業計画、返済可能性などによって変わります。
重要なのは、
「できるだけ借金を減らすこと」ではなく、「開業後の資金繰りまで無理なく成立する借入額にすること」
です。
歯科医院の開業資金はいくら必要?
歯科医院の開業資金は、医院の規模や物件、導入する設備によって大きく変わります。
例えば、
- テナントか戸建てか
- スケルトンか居抜きか
- 医院の坪数
- ユニットの台数
- CTやマイクロスコープ、IOSを導入するか
- 内装にどこまでこだわるか
だけでも必要資金は変わります。
タカラベルモントが公表している参考値では、ユニット3台、CTセファロ、機械室、小機械などを含む医療設備・機器・材料費が約3,500万円、開業準備費が約500万円、運転資金が約1,200〜1,500万円とされています。
内装工事費についても、坪単価80〜110万円程度が目安として紹介されています。
そのため、物件取得費や内装工事まで含めると、テナント開業でも総事業費が5,000万円を超えるケースは十分に考えられます。
設備や規模によっては、7,000万円、8,000万円以上になることもあるでしょう。
ただし、「歯科医院は平均○千万円で開業できる」という数字だけで判断するのはおすすめできません。
大切なのは、平均額を知ることよりも、
「自分がつくりたい医院には、実際にいくら必要なのか」
を計算することです。
開業資金は「設備資金」と「運転資金」に分けて考える
歯科医院の開業資金は、大きく「設備資金」と「運転資金」に分けると整理しやすくなります。
設備資金
医院を完成させるために必要な資金です。
例えば、
- 物件取得費
- 内装・設計費
- ユニット
- CT・レントゲン
- 滅菌設備
- レセコン
- 家具・備品
などが該当します。
運転資金
開業後に医院経営を続けていくための資金です。
例えば、
- 人件費
- 家賃
- 材料・技工料
- 広告費
- 社会保険料
- 水道光熱費
- システム利用料
- リース料
などがあります。
ここで注意したいのが、
設備を先に決めて、残ったお金を運転資金にすることです。
歯科医院は、設備にお金をかけようと思えばいくらでもかけられます。
CTを上位機種にする。
ユニットのグレードを上げる。
マイクロスコープを追加する。
内装にこだわる。
一つひとつは必要に感じても、積み上げると数百万円、場合によっては1,000万円以上変わります。
開業時には立派な医院が完成しているものの、開業後に使える現金がほとんど残っていないという状態は避けなければなりません。
先に必要な運転資金を確保し、その残りの予算で設備投資を考える。
この順番の方が安全です。
歯科医院の運転資金はいくら必要?
開業資金の中でも、特に慎重に考えたいのが運転資金です。
歯科医院では、開業初月から人件費、家賃、材料費、広告費などの支払いが始まります。
一方で、保険診療分が診療当日に全額入金されるわけではありません。
また、開業直後から計画通り患者数が増えるとも限りません。
タカラベルモントでは、歯科医院開業時の運転資金の参考値として約1,200〜1,500万円を挙げています。
ただし、「1,500万円あれば必ず大丈夫」という意味ではありません。
例えば毎月、
人件費 120万円
家賃 40万円
材料・技工料 30万円
広告費 30万円
その他経費 30万円
かかる医院なら、毎月の支出は約250万円です。
6カ月分で単純計算すると1,500万円になります。
もちろん開業後には売上も入ってくるため、実際に必要なのは「毎月250万円×6カ月」ではありません。
そこで作りたいのが、
月ごとの売上・入金・支出・借入返済を並べた資金繰り表です。
通常の事業計画だけでなく、
「患者数が計画の70%だった場合」
など、計画を下回った場合の資金繰りも確認しておきましょう。
計画通りにいかなかった場合でも半年から1年程度、医院経営を続けられるのか。
ここまで確認すると、必要な運転資金が現実的に見えてきます。
自己資金はいくら用意すればよい?
「開業資金の2割程度は自己資金が必要」
という話を聞いたことがある先生も多いでしょう。
日本政策金融公庫の創業支援情報でも、公庫の融資先を対象とした調査では、創業資金総額に占める自己資金の割合は平均2割程度と紹介されています。
ただし、これは「自己資金が2割なければ融資を受けられない」という審査基準ではありません。
融資では、
- 自己資金
- 勤務医としての経験
- 現在の収入
- 既存借入
- 資産状況
- 開業場所
- 総事業費
- 事業計画
- 返済能力
などを総合的に見られます。
そのため、
「自己資金500万円だから開業できない」
「自己資金1,000万円あれば必ず7,000万円借りられる」
と単純には判断できません。
一方で、自己資金が多いほど資金計画に余裕を持ちやすいのは確かです。
また、金融機関は現在の口座残高だけでなく、どのように自己資金を形成してきたのかを確認することがあります。
勤務医時代から毎月積み立ててきた500万円と、融資申込直前に突然口座へ入った500万円では、確認される内容が変わる可能性があります。
将来開業を考えているのであれば、勤務医のうちから継続的に自己資金を準備しておきましょう。
歯科医院ではいくらまで融資を受けられる?
「歯科医師だから○千万円まで借りられる」という一律の基準はありません。
例えば、日本政策金融公庫の「新規開業・スタートアップ支援資金」は、2026年9月時点で融資限度額7,200万円です。
返済期間は、
- 設備資金:20年以内(うち据置期間5年以内)
- 運転資金:10年以内(うち据置期間5年以内)
とされています。
ただし、7,200万円はあくまで制度上の融資限度額です。
申し込めば7,200万円借りられるという意味ではありません。
実際の融資額は、自己資金、これまでの経験、開業場所、既存借入、総事業費、売上計画、利益計画、返済可能性などによって判断されます。
歯科医院では総事業費が大きくなりやすいため、一つの金融機関だけですべてを調達するのではなく、公庫と銀行・信用金庫などを組み合わせて資金調達することも考えます。
歯科医院開業で利用できる主な融資先・融資制度
歯科医院の開業では、主に次のような融資先・制度が候補になります。
1.日本政策金融公庫
歯科医院の開業で、最初に検討したい融資先の一つが日本政策金融公庫です。
「新規開業・スタートアップ支援資金」では、設備資金と運転資金が対象となり、2026年9月時点の融資限度額は7,200万円です。
歯科医院の総事業費が大きい場合には、公庫だけですべてを調達する前提ではなく、民間金融機関との組み合わせも検討します。
2.銀行・信用金庫
地方銀行や信用金庫も、歯科医院の開業では重要な融資先です。
金融機関を比較するときは、金利だけを見ないようにしましょう。
確認したいのは、
- 融資可能額
- 金利
- 返済期間
- 据置期間
- 担保・保証
- 団体信用生命保険
- 繰上返済条件
- 医療機関への融資実績
などです。
同じ4,000万円を借りる場合でも、返済期間によって毎月の返済額は変わります。
また、開業後にはユニット増設、医療機器の買い替え、移転、分院展開などで再び資金が必要になる可能性があります。
開業時の条件だけでなく、長期的に相談できる金融機関かどうかも見ておきたいところです。
さらに重要なのが、銀行によって医療機関への融資経験に差があることです。
歯科医院は一般企業とは異なり、保険診療報酬の入金タイミングや高額な医療設備投資など、独特の資金構造があります。
可能であれば、単に近くの銀行へ相談するのではなく、歯科医院やクリニックの開業融資を扱った実績のある金融機関を候補に入れます。
3.福祉医療機構(WAM)
独立行政法人福祉医療機構(WAM)の医療貸付では、歯科診療所も対象となる場合があります。
ただし、一般的な歯科医院開業で誰でも自由に利用できる融資というわけではありません。
施設や地域、計画内容などによって対象になるかどうかが変わります。
また、2026年9月時点で、新たに開設する一般診療所・歯科診療所について、過去に直接貸付の利用実績がない場合は原則として代理貸付と案内されています。
その場合は、WAMへ直接申し込むのではなく、受託金融機関へ相談します。
WAMを検討する際には、契約や工事着手のタイミングにも注意が必要です。
貸付内定前に工事請負契約や建物購入の売買契約を締結したり、工事へ着手したりすると、原則として融資対象外になる場合があります。
4.信用保証協会付き融資・自治体の制度融資
信用保証協会付き融資は、信用保証協会から直接お金を借りる制度ではありません。
実際に融資を行うのは銀行や信用金庫で、信用保証協会が保証を行う仕組みです。
全国の信用保証協会では、創業者向けの「創業関連保証」などが用意されています。
2026年9月時点では、創業関連保証、再挑戦支援保証、スタートアップ創出促進保証制度を併用した場合も、合計3,500万円が保証限度額とされています。
また、都道府県や市区町村が独自の制度融資を設けている場合もあります。
開業予定地が決まったら、
「○○市 創業融資」
「○○県 制度融資」
「○○県 信用保証協会 創業」
などで確認しておきましょう。
自治体によっては、保証料や利子の一部を支援している場合があります。
融資審査では何を見られる?
金融機関によって審査基準は異なります。
ただし、最終的に見られているのは、
「この医院が継続して利益とキャッシュを生み、借入金を返済できるか」です。
歯科医師としての経験
これまでどのような医院で働き、何年程度の臨床経験があり、どのような診療を行ってきたのかは重要な材料になります。
特に、開業後に提供する診療内容とこれまでの経験に大きな乖離がないかも確認しておきたいポイントです。
自己資金
自己資金の金額だけでなく、その形成過程を確認されることがあります。
継続的に貯蓄してきたことが分かれば、開業に向けて計画的に準備してきた材料にもなります。
住宅ローンなど個人の借入
住宅ローン、自動車ローン、カードローンなどの既存借入も確認されます。
住宅ローンがあるだけで開業融資を受けられなくなるわけではありません。
ただし、既存借入の返済と開業融資の返済を合わせても、開業後の資金繰りが成立する必要があります。
開業場所
診療圏人口、競合医院、交通アクセス、駐車場、周辺の年齢構成などは、患者数予測の根拠になります。
「良い物件だから」ではなく、
なぜこの場所で患者さんを獲得できると考えているのか
を説明できることが重要です。
事業計画
融資審査では、売上予測の根拠が重要です。
「月商1,000万円を予定しています」
だけでは、十分な説明にはなりません。
歯科医院の場合は、
患者数、患者単価、診療日数、ユニット台数
などを基本に、売上計画を組み立てていきます。
歯科医院ならではの融資審査で考えておきたいポイント
一般的な創業融資とは別に、歯科医院では「その診療体制で本当に計画した売上をつくれるのか」という視点が重要になります。
ユニット台数と患者数が合っているか
例えばユニット3台の医院で、開業直後から1日50人、60人を診療する計画を作っても、人員配置や診療時間によっては現実的ではない場合があります。
患者数の計画を立てるときは、
- ユニット台数
- 診療時間
- 院長が診られる患者数
- 歯科衛生士が担当できる患者数
- アポイント枠
まで考えておきましょう。
スタッフ数と売上計画が合っているか
歯科衛生士によるメンテナンスを売上計画に多く入れているにもかかわらず、採用予定の歯科衛生士が1人だけでは計画と診療体制にズレが生じます。
逆に、開業当初からスタッフを多く採用しすぎれば、人件費が資金繰りを圧迫します。
売上と人員計画はセットで考える必要があります。
保険・自費比率が現実的か
インプラント、矯正、審美など自費診療を強みにする医院では、自費売上を高く計画したくなるかもしれません。
しかし、勤務医時代の実績や開業予定地の患者層と大きく離れた計画では、説得力が弱くなります。
「自費率30%」と置くなら、
- これまでの自費診療実績
- 開業エリアの患者層
- 導入する設備
- 集患方法
- カウンセリング体制
など、数字の根拠まで説明できるようにしておきたいところです。
医療機器への投資が売上規模に対して過大ではないか
CT、マイクロスコープ、IOS、高額なユニットなどは診療の質や医院の特徴につながります。
一方で、「開業時に欲しい設備」をすべて入れると、総事業費が大きくなります。
融資計画では、
その設備が本当に開業時から必要なのか
売上や診療方針にどうつながるのか
まで整理しておきましょう。
必要であれば、開業後に導入するという選択肢もあります。
融資審査で不利になりやすいケース
次に該当すれば必ず融資を受けられないわけではありませんが、事前に確認しておきたいポイントです。
自己資金の出所を説明できない
融資申込直前に大きな入金がある場合などは、その資金の出所を説明できるようにしておきましょう。
個人借入が多い
カードローンなど複数の借入があり、毎月の返済負担が大きい場合は注意が必要です。
開業投資額が大きすぎる
「せっかく開業するから」と設備や内装のグレードを上げ続けると、想定売上に対して投資額が過大になる場合があります。
売上計画が楽観的すぎる
開業直後から患者数が一気に増える前提ではなく、徐々に増加する計画も作っておきましょう。
運転資金が少ない
設備投資に資金を使い切り、開業後の現金がほとんど残らない計画は避けるべきです。
融資と物件契約はどちらを先に進める?
歯科医院の開業で注意したいのが、契約と融資相談の順番です。
避けたいのは、
物件を契約
↓
内装工事を契約
↓
医療機器を発注
↓
必要な金額が確定
↓
最後に金融機関へ相談
という流れです。
融資の見通しが立っていない状態で契約を進めると、後から予算を変更できなくなる可能性があります。
基本的には、
- 開業する医院の規模・コンセプトを決める
- 自己資金と現在の借入を整理する
- 総予算の目安を決める
- 物件候補を探す
- 内装・医療機器の概算見積もりを取る
- 運転資金を含めた事業計画を作る
- 公庫・銀行・信用金庫などへ相談する
- 融資条件を確認しながら契約を進める
という順番で進めると整理しやすくなります。
ポイントは、
「物件を探すこと」と「物件を契約すること」は別
と考えることです。
融資相談には具体的な物件や見積もりが必要になるため、候補物件は探します。
一方で、融資条件が見えていない段階で解約困難な契約まで進める必要はありません。
特にWAMを利用する可能性がある場合は、契約や工事着手のタイミングを事前に確認しましょう。
歯科医院の開業融資を受けるまでの流れ
融資先によって細かな手続きは異なりますが、基本的には、
開業計画をまとめる → 必要資料を準備する → 金融機関へ相談・申込 → 面談・審査 → 契約 → 融資実行
という流れで進みます。
ただし、日本政策金融公庫、銀行・信用金庫、WAMでは、それぞれ注意したいポイントが異なります。
日本政策金融公庫の場合
日本政策金融公庫の場合、おおむね次の流れで進みます。
- 開業計画を整理する
- 内装工事・医療機器・物件関係などの見積書を集める
- 事業計画書を作成する
- 融資を申し込む
- 担当者との面談・審査
- 契約
- 融資実行
事業計画では、患者数、患者単価、診療日数などから売上を予測し、人件費、家賃、材料・技工料、広告費、借入返済などの支出も整理します。
面談では、
- なぜ開業するのか
- なぜこの場所なのか
- なぜこの設備が必要なのか
- 患者数をどう予測したのか
- 自己資金をどのように準備したのか
- 勤務医時代にどのような診療をしてきたのか
などについて説明できるようにしておきましょう。
事業計画を専門家につくってもらう場合でも、最終的には院長自身が数字を説明できることが重要です。
日本政策金融公庫は、借入申込後から融資が決まるまでの平均所要日数を2〜3週間程度と案内しています。
銀行・信用金庫の場合
銀行・信用金庫の場合も、基本的な準備は日本政策金融公庫と大きく変わりません。
おおむね、
融資相談 → 資料提出 → 面談 → 金融機関内の審査 → 融資条件の提示 → 契約 → 融資実行
という流れで進みます。
相談前には、
- 総事業費
- 自己資金
- 必要融資額
- 開業予定物件
- 内装・医療機器などの見積もり
- 事業計画
をできるだけ整理しておきましょう。
また、日本政策金融公庫との併用を考えている場合は、
「総事業費○万円、自己資金○万円、公庫○万円、御行○万円で考えています」
というように、最初から全体の資金計画を示した方が相談しやすくなります。
融資条件が提示されたら、金利だけでなく、返済期間、据置期間、担保・保証、団体信用生命保険、繰上返済条件なども比較しましょう。
WAMを利用する場合
WAMの場合は、公庫や銀行と少し流れが異なります。
最初に確認したいのは、
自分の開業計画がWAMの医療貸付の対象になるかどうか
です。
新たに開設する歯科診療所で、過去に直接貸付の利用実績がない場合は、原則として代理貸付となるため、受託金融機関へ相談します。
大まかな流れは、
対象になるか確認 → 直接貸付・代理貸付を確認 → 受託金融機関等へ相談 → 必要資料を提出 → 審査 → 貸付内定 → 契約 → 融資実行
となります。
代理貸付の場合は、計画趣意書、資金計画、計画図面、確定申告書などの資料を求められることがあります。
WAMで特に注意したいのが、契約や工事着手のタイミングです。
貸付内定前に工事請負契約や建物購入の売買契約を締結したり、工事へ着手したりすると、原則として融資対象外になる場合があります。
そのため、WAMを利用する可能性がある場合は、物件や工事の契約を進める前に、自分の計画が対象になるか、どのタイミングで契約してよいかを確認しておきましょう。
開業時に避けたいのは「借りすぎ」だけではなく「資金不足」
勤務医の先生にとって、5,000万円、6,000万円という借入額は大きく感じると思います。
もちろん、必要以上に借りる必要はありません。
一方で、
「借入額を500万円減らしたいから、運転資金を500万円減らす」
という判断にも注意が必要です。
開業後には、
- 患者数が想定より増えない
- 歯科衛生士を採用できない
- 求人費や広告費を追加したい
- 医療機器や設備のトラブルが発生する
といったことが起こる可能性があります。
そのとき十分な現金がなければ、経営上の選択肢が少なくなってしまいます。
また、開業後に追加融資を申し込む場合は、開業前とは違い、実際の医院業績も判断材料になります。
そのため、
削れる設備費は削る。
しかし、必要な運転資金まで削らない。
という考え方が重要です。
勤務医のうちから融資のために準備しておきたいこと
開業融資の準備は、物件を見つけてから始めるものではありません。
将来的に開業を考えているのであれば、
- 自己資金を継続的に積み立てる
- 不要な個人借入を整理する
- 勤務医として診療経験を積む
- 得意な診療を明確にする
- 開業したいエリアを調べる
- 自分の診療実績を数字で把握する
といった準備から始められます。
特におすすめしたいのが、
勤務医のうちから診療を「数字」で見ることです。
1日何人の患者さんを診療しているのか。
患者単価はいくらなのか。
ユニット1台で何人診療できているのか。
歯科衛生士1人が何人の患者さんを担当しているのか。
保険診療と自費診療の売上構成はどうなっているのか。
こうした数字を把握しておけば、開業後の事業計画にも現実味が出ます。
歯科医院の開業融資についてよくある質問
自己資金500万円でも開業できますか?
可能性はあります。
ただし、総事業費4,000万円に対する500万円と、8,000万円に対する500万円では資金計画が大きく異なります。
自己資金だけで判断されるのではなく、勤務医としての経験、既存借入、開業場所、事業計画、返済可能性などを総合的に見られます。
自己資金ゼロでも融資を受けられますか?
制度上、自己資金額だけで一律に可否が決まるわけではありません。
ただし、自己資金は重要な判断材料の一つです。
「自己資金ゼロで借りる方法」を探すよりも、開業を考え始めた段階から可能な範囲で準備しておく方が、資金計画の選択肢は広がります。
住宅ローンがあっても開業融資を受けられますか?
住宅ローンがあるだけで融資を受けられなくなるわけではありません。
ただし、住宅ローンなど既存借入の返済額と、開業後の借入返済額を合わせても資金繰りが成立する必要があります。
公庫と銀行の両方から借りられますか?
可能です。
歯科医院では総事業費が大きくなりやすいため、日本政策金融公庫と銀行・信用金庫などを組み合わせて資金計画を立てることがあります。
WAMは誰でも利用できますか?
いいえ。歯科診療所も医療貸付の対象となる場合がありますが、施設や地域、計画内容などによって利用できるかどうかが異なります。
新たに開設する歯科診療所で過去に直接貸付の利用実績がない場合は、原則として受託金融機関を通じた代理貸付となります。
物件契約と融資はどちらが先ですか?
まず物件候補を探します。
ただし、「候補を見つけること」と「契約すること」は別です。
物件情報や見積もりをもとに資金計画を作り、金融機関へ相談したうえで、融資の見通しを確認しながら契約を進めることが重要です。
まとめ|歯科医院の開業融資は「いくら借りられるか」から考えない
歯科医院の開業融資では、
「最大いくら借りられるか」よりも、「いくら借りても無理なく返済できる医院計画になっているか」
が重要です。
まずは物件、内装、医療機器、開業準備費、運転資金を含めた総事業費を算出します。
そのうえで自己資金との差額を確認し、日本政策金融公庫や銀行・信用金庫などを組み合わせながら、必要な融資額を考えていきます。
そして、資金計画で特に削りすぎてはいけないのが運転資金です。
開業時にすべての設備をそろえることよりも、患者数が想定を下回った場合でも経営を続けられる現金を残しておくことを優先しましょう。
「どんな医院をつくりたいか」と「その医院を無理なく経営できる資金計画になっているか」。
この2つをセットで考えることが、歯科医院の開業融資では大切です。
開業準備で「見落とし」がないか確認しておきませんか?
歯科医院の開業では、融資や資金計画だけでなく、物件選び、内装・設備、採用、集患など、同時に考えなければならないことが数多くあります。
一つひとつは理解していても、実際に準備を進めると、
「このタイミングで決めてよかったのか」
「他に確認しておくことはないか」
「開業してから後悔するポイントを先に知っておきたい」
と迷う場面も出てくるでしょう。
そこで、これから歯科医院の開業を考えている先生向けに、実際の開業準備で押さえておきたいポイントをまとめた、
「歯科医院開業の30のリアルチェックポイント」
をご用意しています。
融資・資金計画だけでなく、開業準備全体を一度整理しておきたい先生は、ぜひあわせてご覧ください。
参考・出典
- 日本政策金融公庫「新規開業・スタートアップ支援資金」
- 日本政策金融公庫「公庫利用Q&A」「よくあるご質問(国民生活事業)」
- 独立行政法人福祉医療機構(WAM)「医療貸付事業」
- 一般社団法人 全国信用保証協会連合会「創業をお考えの方」
- タカラベルモント デンタル事業「歯科開業の開業資金と、調達・融資先選定について」
※本記事に掲載している融資制度・条件等の情報は、2026年9月時点の公的機関・金融機関等の公開情報をもとにしています。制度内容や融資条件は変更される場合があります。実際に利用を検討する際は、各金融機関・公的機関の最新情報をご確認ください。
執筆者
道下 雅和
FELICIA Works株式会社 代表取締役
営業18年、マーケティング15年、経営戦略10年。 営業職としてトップセールスの実績を積んだ後、複数社で営業統括、マーケティング統括、執行役員、取締役を歴任。 これまでに、累計500院以上のクリニックを含む1,000社以上の企業支援に携わる。 経営戦略、マーケティング、営業、組織づくりまで幅広い領域を支援し、表面的な施策ではなく、経営課題を本質から捉えた戦略設計を強みとする。 短期的な成果の創出だけでなく、持続的に利益を生み出す仕組みづくりを得意としている。